傾聴の1つの有名な技法として、「伝え返し」があります。
今回は伝え返しについての効果と共感との関係について、そして伝え返しをメインスキルの1つとしている来談者中心の積極的傾聴について書いていきたいと思います。
興味のある方は読んでみてください。
伝え返しと傾聴

伝え返しとは、相手から聞いた言葉をそのまま同じように自分の声にして相手に伝え返すことです。
これは相手の言葉をしっかりと聴く、積極的傾聴の大事な技術だと言われています。
積極的傾聴における伝え返しには、語り手の言葉を傾聴者が要約して伝え返すという手法もあれば、できるだけ正確に、語り手が声にしたままの言葉を伝え返すという手法もあります。
どちらにしても、それらは語り手の語る言葉を一言一句もらさないというぐらいの迫力で集中して語り手の声を聴かなくてはできません。
伝え返しは、傾聴の中でも特にトレーニングを必要とするものの一つです。
上手な人に、的確に伝え返しされ、自分の語ったところが、相手に正確に伝わったことが感じられると、何か共鳴のようなものを感じ、自分の存在を受け止めてもらえたかのような感覚を得ることができます。
伝え返しと共感

レベルの高い伝え返しは、他人同士が同じ言葉で響き合う、身体と身体の共鳴とも言えます。
この伝え返しは、オウム返しと揶揄されることがありますが、実際に鳥のオウムが、お互いに出している音を真似ることで、認識し合うのと同じで、人間でもそのような感覚の共鳴というような、不思議な感覚は起こります。
言葉の単純な意味を超えて、共感的に響き合う。
なんだかよくわからないけど、嬉しい、元気がもらえる、自由を感じる。
それが、伝え返しを受けることによって体感できます。
積極的傾聴の伝え返しの効果

積極的傾聴の伝え返しをするときは、的確に相手の言葉の相(すがた)を聴かなくてはできません。
相手の話を大体で聴いて、相手の話を自分の価値観で解釈して伝えるのでは伝え返しとは言えません。
積極的傾聴の伝え返しは、あくまで相手の語った言葉、そのままを正確に聞くことをベースにすることで、効果を発揮するのです。
伝え返しの効果には、以下のような効果があります。
- 語り手は自分の言葉を丁寧にしっかりと聴いてもらえていることが確認でき、安心する。
- 語り手は自分自身の言葉と向き合うことができる。
- 語り手は自分の個人的な世界の言葉が伝わったと感じられる。
- 語り手は自分の存在をそのままに受け止めてもらえたと感じる。
- 語り手はスムーズに次の言葉を語りだす。
このような効果を生むような伝え返しができるようになるには、語り手の言葉をこちらの一方的な解釈で聴いてしまうことのないように、継続的でしっかりとした訓練が必要です。
伝え返しと来談者中心療法

私が20年近く学んできた来談者中心の積極的傾聴は、この伝え返しのやりとりが、語り手との全体のやりとりの実に8割から9割を占めます。
これは、伝え返しに、来談者中心療法の創始者であり、積極的傾聴の神様とも呼ばれる、ロジャーズの言う積極的傾聴の3条件、一致性、無条件の肯定的関心、感情移入的理解のエッセンスが合理的に含まれているからです。
伝え返しと積極的傾聴者の3条件

さてそれでは、伝え返しがなぜ、ロジャーズの言う、傾聴者の3条件のエッセンスを合理的に含んでいるかを簡単に説明してみます。
傾聴者の3条件
- 一致性
- 無条件の肯定的関心
- 感情移入的理解
伝え返しと、一致性との関係
ロジャーズの言う傾聴者の3条件の中で一番大事とされているのがこの一致性です。
一致性とは、傾聴者が自らの感情に開かれており、自分の所持している感情を隠したり、否定することなく受け入れているという状態です。
来談者中心の積極的傾聴は、その名の通り、来談者(語り手)が中心の積極的傾聴です。
傾聴者は自分の人生経験に基づいた意見や感想、価値観を来談者に伝え、教えることを控え、傾聴に徹し、来談者の自己理解をいかに促進し、助けるかということを基本命題にしています。
しかし、どんなに訓練をした傾聴者であっても、語り手の言葉を聞き流しているだけでは、語り手の言葉を聴いて触発された、傾聴者自身の過去の経験に基づいた、傾聴者の意見、感想、価値観からのアイデアが浮かんでしまいます。
こうなってしまうと、語り手の言葉を純粋に正確に聴き続けるのは難しくなってしまいます。
この傾聴者の身体の動きは、ほぼ避けようがない、非常に自然な動きです。
語り手の言葉を聴いて触発され、傾聴者自身の経験を語りたくならないようにするための、ほとんど唯一の方法が、語り手の声にする言葉に、とにかく集中し、必死に伝え返しを続けることなのです。
この辺りの理解は、実際に伝え返しを本気で実践してみないと実感することは難しいでしょう。
伝え返しと、無条件の肯定的関心との関係

ロジャーズの言う、傾聴者の3条件の中で一番体現が難しいのが、この無条件の肯定的関心であると私は思っています。
しかし、この無条件の肯定的関心も、伝え返しという行為にそのエッセンスが含まれています。
傾聴者の価値観をはさまず、傾聴者の解釈を混ぜ込まずに、とにかくそのままに語り手の言葉を伝え返しする。
実はこれは、まさに相手を無条件に肯定する、非常に具体的な所作なのです。
自分が語った言葉が誰かに、そのままの姿で聴いてもらえるということは、それだけで、そのままに(無条件に)私自身を受け止めてもらえた、私を肯定してもらえた、と体感できるのです。
伝え返しと、感情移入的理解の関係
ロジャーズの言う、傾聴者の3条件の中で、一番可能性に満ちているのが、この感情移入的理解です。
この感情移入的理解も、伝え返しに、そのエッセンスが含まれています。
感情移入的理解とは、語り手の言葉から、あたかも語り手の感情を傾聴者が感じているかのように理解するということです。
ここでのポイントは、語り手の言葉を聴いて触発され、思い出された、傾聴者自身の過去の感情に感情移入するということではない、ということです。
感情移入するのは、あくまで今ここの語り手の言葉にです。
しっかりと今ここで、語り手の言葉をそのままに聴き、伝え返しができないようなら、今ここの語り手の言葉に感情移入することもまた、できないということです。
①私はリンゴが好きです。
②私はリンゴがとても好きです。
伝え返しとは?効果や、来談者中心の積極的傾聴との関係など、おわりに

私が学んでいる積極的傾聴の学習は、この伝え返しを人生をかけて身につけていくような学習です。
伝え返しと言っても、実は非常に奥深いやりとりなのです。
時々私は、人間のコミュニケーションよりも、オウムのコミュニケーションの方が高度かもしれないな、と思うことさえあります。
人間は、感覚的で身体的なコミュニケーションがどんどん下手になってしまっているような気がしますね。
私はそれが、現代人の生きづらさと無関係ではないような気がしてならないのです。
黒田明彦