今回の記事は、「積極的傾聴の伝え返しが上手くいかないとき」ということで、実際の積極的傾聴の場面で、伝え返しが上手く機能しないときについて書いてみました。
実際に積極的傾聴の実践をしている方には、ある程度共感していただけるかと思います。
興味のある方は読んでみてください。
伝え返しがうまくいかない_語り手が一人で走るように語る場面
積極的傾聴では、語り手の語る言葉に隙間がほとんどなく、傾聴者のレスポンスを待たずにというか、傾聴者のレスポンスを避けるように、どんどん話し続けてしまうという場面があります。
こういうとき、まずは、無理に語り手を止めずに、相槌程度で応答し、走りきってもらって少し落ち着いてから、傾聴者に残った言葉のすがたを伝え返して、そこからテンポよく伝え返していくのがいいかもしれません。
ただし、相手のレスポンスを無視するような語り方が身についてしまっている人もいるので、そういう人の場合は、また結局一人で走っていってしまいます。
その場合は、やはりどこかで傾聴者がその人の語りを一度止めて、こちらのレスポンスを積極的に聞いてもらうことも一つの方法だと思います。
なにより大事なのは傾聴者の一致性です。
傾聴者がその語り手を前に真実であることです。
走り去るように語っていく語り手に、置いてけぼりをくらっている感じで居たたまれない気持ちになっているなら、それを隠さず、その気持ちに従ってなにか動くべきだし、語り手が一人で走っていることに、特に抵抗を感じず、余裕をもって見守ることができているのであれば、無理に止めることもないでしょう。
こういうときは、こうするべき、と画一的に学ぶのではなく、今、このときのこの人の前で、自分がどうあるのがベストであるかと思考する姿勢が大事だと思います。
ただ、個人的な欲を言えば、せっかく積極的傾聴をする機会が与えられたのであれば、普段は体験できない応答を出来る限り体験していってほしいと思いますので、一人で走っていくような語り方は、ある程度のところで止めたいと私は思っています。
伝え返しがうまくいかない_伝え返しに違和感を覚え、それにこだわってしまう場面
傾聴者がただ言葉を繰り返しているだけ、という感じに引っ掛かり、自分の語りに集中できなくなってしまう人がいます。
語り手の関心が、傾聴者の所作に向いているうちは、積極的傾聴は深まりません。
傾聴者としては、語り手の関心が語り手自身の言葉に向いてほしいと願うわけです。
こういう時の対応は、しばらくは相槌だけにしてみるなど様子を見て、次第に語り手が自分の語りに集中しだしたところで、ポツポツと伝え返しをしてみるといいかもしれません。
語り手は、自分の言葉を大事にできない語りに慣れてしまっているかもしれません。
少しずつ抵抗を和らげながら、なんとか語り手にとっての鏡になりたいものですね。
時には、語り手があまりにも伝え返しに強い難色を示し、面接続行不能状態に陥ることもあるかもしれません。
そんな時は、傾聴者の方から正直にその辺りの感覚について話題にとりあげ、明確化してみるのがいいかもしれません。
傾聴者は、あくまで語り手の語りを支えたがっているのだということを伝えてみるのも手です。
こういった、積極的傾聴においての危機的状態に対処するためにも、傾聴者が、ときには伝え返しという所作から離れることもできる、ということも、様々な語り手との今ここの関係づくりにおいては、大事なところだと思います。
伝え返しがうまくいかない_傾聴者への質問が多い場面
自分が相手に質問し、相手が答える。相手が自分に質問し、自分が答える。
このパターンがコミュニケーションの基本として身についていて、それがマナーであるというぐらいの感覚を持っている人は結構います。
まず相手の意見を聞き、それとの対比で自分の意見を言うことに慣れている人、または、自分主体のコミュニケーションが苦手な人もこれに該当します。
このような人達は、自分を独白的に語り、自分という感覚や理解を深めていくということに慣れていない、もしくはそれが許されていることをなかなか信じられないのかもしれません。
傾聴者が語り手の質問に答えないのは、傾聴者が語り手の質問に答え、傾聴者のところを語ってしまうことが、語り手が自分自身を語り、自分自身という感覚や理解を深めていくということを妨げてしまうからです。
私自身は、語り手の抵抗を上げないため、質問の形で出た声には、わりとすぐに答えてしまうことが多いのですが、厳密にいえば、その応答は、クライエントが自分語りに深く入っていくことを妨げているかもしれません。
ともかく、語り手が語り手自身と向き合う抵抗感を一緒に乗り越えるイメージをしっかりと持つということは大事なように思います。
伝え返しがうまくいかない_傾聴者のレスポンスがまるで響いていない場面
ロジャーズの言う傾聴者の態度条件は、一致性、無条件の肯定的関心、感情移入的理解の3つが有名ですが、語り手のパーソナリティ変容に関して重要な条件がもう一つあります。
それは、傾聴者のその態度が最小限度でも語り手に伝わっていることです。
傾聴者がしっかりと語り手の動きに合わせて応答していたとしても、その応答が語り手に届いていなければ意味がないということですね。
やり取りの中で、普通の声量でレスポンスをしていても、こちらの声がまったく響かない、届かない人もいます。
単純に聴力の問題のときもあれば、意識・注意の問題のときもあり、精神的にブロックがかかっているときもあるように思います。
そういうときは、傾聴者に残った、特に伝え返したい言葉のすがたを強調して届けるとか、声を大きめ、ゆっくりめにするなど、なんとかこちらのレスポンスを響かせ、語り手に届けるための工夫が必要かもしれません。
そのためにも、相手がこちらのレスポンスにどう反応しているかをしっかりと見ていくことは、とても大事なところだと思います。
伝え返しがうまくいかない_なかなか身に添う言葉に運ばれていかない人
積極的傾聴のミソは、語り手が独白的に語っていく中で、自分の感情、体感、経験にぴったり合う言葉にであっていき、自己理解がすすんだり、感覚が鋭くなったり、精神的な自由を獲得していくことです。
そのために傾聴者は、語り手が深く、深く自分語りに入っていけるような応答をしていきます。
そのひとつの有効な手段が伝え返しと言われている対応です。
相手に聞かせていただいた言葉のすがたを、そのまま声にして相手に届けるというやりとりは、相手の語りを受け止め、そして、相手の語りを進めます。
その影響力は不思議な程大きなものです。
しかし、どれだけ一生懸命取り組んでいても、ただ相手が語った言葉のすがたを機械的に伝え返しているだけでは、なかなか語りが深まっていかない時があります。
そういうときは、語り手の言葉を伝え返しさせていただきながら、傾聴者がどれだけ感情移入できているかということが大事になってきます。
なかなか語り手の語りが深まっていかない場合は、語り手の言葉を伝えがエスだけではなく、感情移入している傾聴者自身の言葉が必要なときもあります。
このあたりの取り組みは、ロジャーズ派の積極的傾聴の根底にも関わる問題なので、傾聴者によってかなり考え方が分かれると思います。
あくまでも、どこまでも語り手の言葉のすがたにのみ、付き従っていくべきとする人。
今ここの語り手に感情移入できているのなら、傾聴者自身の言葉もさほど邪魔にならず、時に語り手を助けることもあると信じられる人。
大事なのは、どちらにしても、傾聴者自身が、その体験において真実であるということだと思います。
伝え返しの危機_おわりに
今回も既に積極的傾聴学習を続けている人向けの記事となりました。
積極的傾聴学習は体験学習です。
私の学習もそこそこ長くなってきていますが、これまで先生から積極的傾聴の理論を教えてもらったことはありません。
すべて、見て、聞いて、感じさせていただいたところで学んできたところです。
自由に感じ、自由にわかり、自由に学ぶ。
それが積極的傾聴学習の基本です。
ロジャーズは、自分の体験こそが自分にとって唯一の権威であると言っています。
私は、今後も自分の体験を根拠に学習を進めていきたいと思っています。
体験学習の面白さが、ひとりでも多くの人に伝わりますように。
黒田明彦