こんにちは。エンカウンターグループ歴が、かれこれ20年に突入しようとしている黒田明彦です。
エンカウンターグループは、積極的傾聴の神様、カール・ロジャーズが考案したグループワークです。
エンカウンターとは出会い、遭遇の意味ですね。
日常ではなかなか出会うことのできない相手の深みや、自分自身の深みに出会っていくことが願われている場です。
今回は、そのエンカウンターグループにおけるファシリテーターの役割と注意点ということで、書いてきます。
エンカウンターグループのファシリテーターには、具体的にどんなものが求められ、どんなことを気を付けなければならないのか?
興味のある人は読んでみてください。
ファシリテーターの役割の前に、そもそもエンカウンターグループとは?

エンカウンターグループは、ありのままの自己表現と、日常は感じていてもなかなか表明することのできない深い感情的体験を語り合い、聞き合うグループワークです。
通常は4名~15名程度のメンバーとファシリテーターで構成されます。
エンカウンターグループのファシリテーターによって特定のテーマが用意されているわけではなく、参加者それぞれが自分の目的に従って自己を切り拓いていきます。

日常の思考のレベルに留まらず、深い感性のレベルでの人間交流が行われることが願われている、大変興味深い場です。
一般的にファシリテーターとは?

ファシリテーターとは、促進者を意味する言葉です。
現在、一般的には会議などの進行を司る役割がある人という意味で使われていますね。
1940年代後半にアメリカで用いられ始めた、このファシリテーターという言葉ですが、実は、書物の中にこの概念を初めて表したのは、何を隠そう、エンカウンターグループを生み出し、積極的傾聴の神様とも呼ばれた、カール・ロジャーズなのです。
エンカウンターグループにおけるファシリテーターの役割
エンカウンターグループにおけるファシリテーターの基本的な役割は、それぞれのグループメンバーを見守りながら、グループが育ち、グループ全体のエネルギーが高まることを促進することです。

ところで、エンカウンターグループにおけるファシリテーターの役割は、積極的傾聴における傾聴者の役割と同じであると考える人もいるかもしれません。
ただ、積極的傾聴における傾聴者の立ち回りは、いかに傾聴者の自我を抑えて、語り手に安心、安全、自由に語ってもらい、それを受容できるか、ということに主眼が当てられます。

この傾聴者の取り組みに関しては、治療的関係の中では語り手を理解することに集中し、自我を抑えるあまり、語り手との人間対人間の交流から遠ざかってしまう傾向があるのではないか? という歴史的な反省があります。
それに対し、エンカウンターグループでは、ファシリテーター自身も1人の人間として、自由に感情を表明し、まさに人間対人間の交流をすることができます。

カール・ロジャーズとエンカウンターグループ
このエンカウンターグループは、ロジャーズが晩年、もっとも力をいれていた取り組みの1つですが、ロジャーズは取り組む中で、「自分が積極的傾聴をしていた時は、どのような攻撃的語り手に対しても“怒り”というものを感じたことはなかった。しかし、エンカウンターグループを始めて以来、時々グループの中で怒りを感ずることがあり、それを表現することさえできる」と語っていたそうです。
興味深いですね。
エンカウンターグループのファシリテーターに求められること

エンカウンターグループのファシリテーターは、傾聴者のように、終始自分の自我を抑え、ただ相手に寄り添うような役割を求められるわけではありません。
自分自身もグループの一員として自由に人間交流をしてもよいのです。
しかし、エンカウンターグループのファシリテーターは、どのようなときにグループは成長し、グループの力が高まり、そして、どのようなときにグループの成長と力の高まりが阻害されるのか、ということを熟知している必要があります。
グループの成長を阻害するものは?
グループの成長、グループの力が高まっていくのを一番阻害してしまうものは、そのグループにおいて権威的力を持つ者によって、グループ参加者の動きが一定の方向に固定させられてしまうことです。

エンカウンターグループのファシリテーターはその辺りのことに敏感でなければなりません。
グループの成長を阻害するのはファシリテーター自身
それでは、エンカウンターグループの中で一番の権威者は誰でしょうか?
それは、ファシリテーター自身です。
自由が願われているエンカウンターグループの場とはいえ、時間制限や、人間関係における最低限のルールは必要です。
そのためにも、ファシリテーターは場の安全を保つために、最低限の権威を有している必要があります。

ですから、どんなに、ファシリテーターが自分の権威を言葉で否定したところで、どうしてもグループの参加者は、ファシリテーターの言動に注意を向け、ファシリテーターの意向に従おうとしてしまうのは自然な動きなのです。
ファシリテーターはそんな参加者の動きに敏感でなければなりません。
そのファシリテーターがどんなに優秀な人で、どんなに個人的な力のある人でも、その人の方向にばかりグループの力が偏れば、グループ全体の成長はありません。

最も優秀なグループリーダーとは、リーダーの役割が必要のないグループを育てるリーダーなのだということをエンカウンターグループのファシリテーターは肝に銘じる必要があります。
エンカウンターグループの中で、ファシリテーターが最も自由に自分の感情をあらわにできるときというのは、グループメンバーが自由にファシリテーターの発言をはねのけることができるところまで、グループが成長したときなのです。

エンカウンターグループのファシリテーターの注意点

エンカウンターグループに対して、深刻で継続的な心理損傷を引き起こす可能性があるという歴史的・科学的な主張があります。
本式のエンカウンターグループは、感受性を増大させるための様々な工夫がなされているパワフルな手法であるために、扱いによってはとても危険であり、ファシリテーターの実力が求められます。
最も危ないとされているのは、エンカウンターグループの効果によって増大する感受性を利用した、操作的アプローチであると言われています。
エンカウンターグループにおける操作的アプローチのこわさ
日常では味わえないほどの強烈なエネルギーに包まれながら、ある特定の人間(主にファシリテーター)によって操作的に、グループ参加者を都合の良い人間像に作り替えようとする試みが、当時の日本企業の間では横行していたようです。
平常時・・・

エンカウンターグループによる感受性の増大と、誘導的アプローチにより・・・

安全、安心な場が確保されないまま、抑えが効かない状況での半強制的な開示・・・

その上で、会社の都合に合わせた操作的指導・・・

たとえば、単純に自分の心の最も深くて、柔らかい部分が無理やり引っ張り出された上で、強く否定されるようなイメージを浮かべて見れば、それがどれだけ深刻なダメージになるかということが想像できるのではないでしょうか。
エンカウンターグループの効果によって増大された感受性は、その人が、よりその人らしくなることを助けるべきものであること、そして、それらは、グループの力によって受容されるという体験にならねばならないということ。
エンカウンターグループのファシリテーターはこの辺りの感覚を体験的に学んでいる必要があります。
エンカウンターグループにおけるファシリテーターその役割と注意点・まとめ

エンカウンターグループにおけるファシリテーターの役割と注意点、ということで書いてきました。
ちょっとこわいことも書いてしまいましたが、育ちきったエンカウンターグループというものは、参加者のどんな否定的感情すらも受け止めてしまうほどの力を持っています。
また、強い誘導的なアプローチさえなければ、どんなに感受性の高まりがあっても、人は基本的には、その場その場で、大丈夫なところまでしか自分の深いところを出せないようになっています。
エンカウンターグループにおける感受性の高まりと、優れたファシリテーターの存在は、あくまで、その場が自分の深いところまでを出しても大丈夫な場になるまでのスピードをあげるものであると考えると良いかもしれませんね。
どうでしょう、エンカウンターグループのファシリテーター。
やればやるほどに奥深く、面白いものですよ。
ちょっとやってみたいと思いませんか?
そのためには、まず、エンカウンターグループに実際に参加してみるところから始めることをお勧めします。
面白いですよ、エンカウンターグループ。
黒田明彦