私は精神保健福祉の現場を見ている経験が長く、人の心の調子の敏感な見立てをすることをとても大切な仕事としていました。
精神障害を抱えている人というのは、その精神症状を薬で抑えていることもあってか、環境や、他人に非常に敏感に反応し、影響を受けやすいにも関わらず、自分のその敏感さに鈍いという特徴を持っている方が多いように思われました。
精神障害をもっていなくても、元来、人の心というものは、自分で自覚できている以上に敏感であるようです。私たちはその敏感さを、日々どれだけ自覚できているのでしょう。
自分の心の反応にどれだけ丁寧に応答できているかで、自分の心と上手に付き合い、機能的な動きを継続的にできるかということが決まってきます。
この辺りのところに興味のある方は読んでみてください。
心の調子の見方ー心の調子が良いというのはどういうことか
皆さまは、心の調子が良いという時、どういう自分の状態を想像するでしょうか。
身体が軽く、気持ちは弾み、鳥の歌が聞こえ、大地が讃えているようだ!
なんともステキで、なんとも清々しい朝だ!
こんな日は、間違いなく調子が良いという自覚を持つことでしょう。
しかし、残念ながら、このような心の高揚と、心を含む、身体全体の好調は、必ずしも一致しません。
たとえば、上記のような気分は、体調バッチリ、休養充分、気力充実、睡眠のリズムも丁度うまくいって、すべてが噛み合った、まさに絶好調の朝にも感じることができるでしょう。
しかし、全く休めず、気がどんどん高ぶり、ほとんど寝れていない状態で、明らかに身体が憔悴してしまっている状態なのに、脳内だけがやたらスッキリ快調である、という朝にも上記のようなことは感じることができてしまうのです。
いわゆる、躁状態というやつですね。
身体がつらくても、心が満たされているならいいじゃないかと思う人もいるかもしれませんが、躁状態には、かなりの確率で反動がきます。
精神の高ぶりからくる調子の高さの波の後には、ほとんどと言っていいほど、低調の波がきます。
いわゆる、うつ状態というものです。
躁状態が激しければ激しいほど、次にやってくるうつ状態は長く苦しいものになるのです。
また、調子が高いときというのは、自分の身体の自覚レベルが著しく下がっているときでもあります。
身体の調子が整っているから好調を感じているのではなく、身体の悲鳴が聞こえないから、好調を感じているのです。
そして、自分の身体の状態の自覚にすら鈍くなっているということは、その他すべてのことの、妥当性、現実感に鈍くなっているということなのです。
そういうときは、自分の感じていることと、自分の周りの他の人が感じていることに大きなギャップが生まれてしまいがちです。
自分が出来ていると思っていることでも、周りの人から全く評価されずに、むしろ迷惑がられているということすらありうるのです。
心の調子の見方ー心の調子の良い日とはどんな日か?
人にとって心の調子の良い日、それは…。
調子が良いとも悪いとも感じない、普通の日のことです。
むしろちょっとだけ心の調子の悪さを自覚できているぐらいの日が丁度良いかもしれません。
良くも悪くもないが、いつも通りパッとしない日。
これが、自分の実力に見合った行動を自然にとれる、精神的に安定した、心の調子の良い日だと私は考えます。
私は良くも悪くもない心の調子の日をニュートラルの調子の日と呼んでいます。
調子が良くも悪くもない日、中間の調子の日こそ、調子の安定している日、と理解し、それを自分の調子の基準としています。
このニュートラルの心の調子の日を基準に、調子の高さ、低さを判断する。
他の誰かと比べて調子が良いとか、悪いとかを判断するのではなく、自分のニュートラルの日と比べて、その日の自分の心の調子を判断するのです。
調子が高い、低いということは、テンションが高い、低いという言葉に言い換えられます。
調子の高い人というのは、元気、陽気な人を指しているのではなく、気持ちが張りつめている人なのです。
そして、調子の低い人というのは、いつも通りのことをするための気の張りが保てない状態の人のことです。
心の調子の見方ーニュートラルの心の調子の日ってどうやって決めるの?
基本的には人の心の調子というのは1日では判断できません。
昨日はこうだった。今日はこうだった。明日はどうだろう。
日々の調子を見ていく中で、大体の平均的な調子を判断していく必要があります。
大体3ヵ月くらいで折れ線グラフのように日々の調子の波が判断できるようになり、平均値が見えてきます。
1年間意識してみることができれば、正確に自分のニュートラルの調子が把握できてくるでしょう。
自分の心の調子の平均値が見えてくれば、季節の変わり目は心のバランスを崩しがちだとか、暑い日はだめなんだとか、天気の悪い日は気が小さくなるんだとか、気持ちの移り変わりと環境の関係も見えてきます。
長い期間で自分の体調を見つめることで、自分にとって良くも悪くもない日、ニュートラルの調子の日という感覚をつかんでいきましょう。
心の調子の見方ーどうやって心の調子をニュートラルに保つの?
基本的に心の調子というものは、自分で自在にコントロールできるものではありません。
蓄積している身体の疲れにも左右されるし、気温や気圧、天候の影響も大きく受けます。
心の調子をニュートラルに保つために大事なのは、規則正しい生活をおくること。そしてルーティンワークをもつことです。
いつも同じことをやっていれば、波打つ自分の心の調子の変化を自覚しやすくなり、対処もしやすくなります。
心の調子が非常に微細な変化を見せても、日々やっていることが同じなら、変化に気が付きやすく、対処しやすい。
心の調子の低さを自覚したときはどう対処するか?
心の調子への対処の基本は、自覚とイメージです。
自分のニュートラルの調子を知っていれば、自分の調子が低いことを自覚しやすいです。
調子の低さを自覚したら、まずは、無理をしないこと。
たとえ、いつもと同じクオリティで活動できなくても自分を責めないこと。
体調には波があるが、いずれニュートラルへと戻るものだと信じること。
このようなイメージをしながら、たんたんと(許される程度にクォリティを下げて)、いつもと同じ活動をしましょう。
社会で生活していくには、この低調の波がきているときに、いかに凌ぐかがカギになってきます。
風邪など具体的な理由で明らかに体調を崩しているのではなく、なんとなくの心の低調の波が来ている時は、そこでドーンと思い切って休んでしまうよりも、いつも通りの活動をしている方がリズムは狂わず、心の調子はもどっていきやすいかもしれません。
心の調子が高いときはどう対処するか?
心の調子は上がりきってしまうと、対処はとても難しくなります。
しっかりニュートラルの調子を意識し、調子の高くなり始め、高くなりつつあるときに自覚し、自制できるかが大事になってきます。
調子の高さが自覚できたときは、いつもと違うことを思い付きでしないこと。
自分の活動を抑えるというイメージをもつこと。
高ければ高い波の後ほど、つらい低調の波がくることを心得ること。
自分が今、相手に不快感を与えてしまいがちな状態であることを理解すること。
調子が高いときというのは、低いときよりも自覚が難しいです。そして、気分が高揚しているので、自分の行動を抑えることも難しい。
とにかく自分のニュートラルな状態と比較して厳しく判断しましょう。
そして、どんなに気分が良くても、その状態は自分にとってベストなパフォーマンスが出せる状態ではないことを自分に言い聞かせましょう。
揺れ動く心の調子の対処の大事な一歩は、自覚するということである。
心の調子の見方ー環境はニュートラルな自分に合わせて選ぼう
学校選び、仕事選び、友人選び、恋人選び…。
それらは、ニュートラルな調子の時の自分に合わせて選びましょう。
調子が高いときや低いときの自分に合わせてそのような大事な要素を選んでしまうと、いつしか息切れしたり、退屈したりして、その環境に満足できなくなり、継続した活動が維持できなくなります。
自分のニュートラルの心の調子を知り、自分が安定したパフォーマンスを出せる状態を知り、その安定したパフォーマンスに見合った自分の居場所を決めていきましょう。
心の調子の見方ー自分の調子の判断材料になってくれる人をもつ
自分の調子の判断材料になってくれる人を身近にもちましょう。
自分の心の調子は(特に調子が高いときは)なかなか自分では自覚しにくいです。
だから信頼できる人の助言はしっかりと参考にしましょう。
そういう意味でも自分のニュートラルな調子のときに、波長の合う人と仲良くしておくことは大事です。
その人と波長が合わない時、自分の調子が乱れているかもしれないということを判断材料にすることができるからです。
心の調子の見方ー他人の心の調子の高さ、低さってどうやって見極めるの?
他人の心の調子は、発言の内容、声色、活動量、そしてオーラなどで判断します。
発言の内容が落ち着いているか。現実的なことを言っているか。身の丈に合ったことを言っているか。その人のいつもの発言との比較で判断します。
また、心の調子が高いとき、人の声には張りがあり、トーンが高くなりがちです。
そこからは元気な感じというよりは、緊張感や上すべり感が伝わってくるものです。
逆に調子が低いときは、声に張りがなく、トーンが低くなりがちです。弱々しさが伝わってくることが多く、見ている方がどこかソワソワと煽られる感じがすることもあります。
活動量も人の心の調子を見るのにわかりやすいです。心の調子が高ければ多くなるし、低ければ少なくなります。
調子が高い人の行動は、自分の役割を超えて何かをやろうとしていることが多いです。
調子が低い人の行動は、いつもは問題なくできている自分の役割をこなせていなかったりします。
ちなみに一つ一つの行動の完成度は、調子が高いときも、低いときも落ちています。
調子が高いときは、行動の量は増えてはいても、完成度は低いので、散らかしてしまうような感じなのです。
調子が高い人というのは、圧迫感があり、侵襲性のあるオーラをまとっている感じです。
対面していて、ホッとできない感じ。こちらの平穏が脅かされるような迫力があります。
調子が低い人というのは気が小さくなっていて、放っておけないようなオーラをまとっています。こちらが引き込まれてしまうような感じですね。
心の調子の見方ー人の心の調子の指摘の仕方
これは是非、知っておいて欲しいのですが、他人に、調子の高さや低さを指摘されることは、非常に腹が立ったり、悔しい思いをすることであります。
「今日のあなた、調子が高いね・低いね。」という指摘は、自分の見えていない自分を突き付けられるような感じがあったり、自分ではどうにもできない自分を刺激されるような感覚になるものです。
その指摘は、されるほうにとっては脅威となりうるのです。
だから人の心の調子を指摘するときは、目一杯の思いやりをもってしてあげてください。
上から威圧的、評価的にいうのではなく、すっと優しくふれてあげる感じで指摘してあげてほしいのです。
あまり心の調子は指摘しないほうが良いのか?
良いか悪いかでいえば、あなたが、相手の調子の不安定さを指摘したくなるほどに感じているのであれば、指摘してあげるのが良いと思います。
うまくいけば、本人の心の調子の自覚につながり、改善に向かうかもしれません。
常日頃から自分の調子の波に苦しんでいて、できるだけ調子の波を自覚したがっている人には、感謝されることもあります。
しかし、どんなに思いやりをこめて、優しい、丁寧な指摘をしたとしても、それに脅威を感じ、強く反発してしまう人がいることは知っておいた方が良いでしょう。
心の調子の見方ーおわりに
今回の記事は心の調子の見方ということで、長い期間をみての心の調子の平均をニュートラルという基準にして、そこから調子が高い、低いを判断するという方法を紹介してみました。
自分の心の調子の高低をうまくコントロールすることは、非常に難しいことです。
ですからしっかり環境を管理することで、その振れ幅を小さくしようという発想が妥当な対処となります。
人によってその振れ幅は差がありますので、同じ状況でも、皆が同じ心の調子になるとは限らないというところが難しいところですね。
しかし、心の調子が悪くなってしまっても、それをしっかりと自覚できていると、周りの人はグッと楽になるものです。
「今日、私は調子が高い・低い、かもしれない…。」という自覚があるということ。
そして、それについて少しでも対処しようという意思があること。
これが本人から感じられると、周りの人は、よっぽど自分に余裕がないときを除いて、助けてくれようとしてくれるでしょう。
心の不調に自覚がある人は助けやすいのです。
明らかに心の不調を自覚できない状態だと、周りもそれにふれるのが難しくなり、苦しい見て見ぬフリがどんどん生まれ、その空間の純粋度が下がり、全体のストレスはどんどん上昇してしまいます。
自分のためにも、みんなのためにも、自分の心の調子が自覚できる人になっていきたいですね。
黒田明彦