この記事では、カール・ロジャーズのパーソナリティ理論に出てくる命題14、15についての説明に挑戦しています。
命題14のポイントは、ありのままの体感が認識できないと心理的不適応を生むということです。
命題15のポイントは、逆に、ありままの体感がことごとく認識できているときは、心理的に適応しているということです。
カール・ロジャーズのパーソナリティ理論をなんとかわかりやすく説明できないかと考え、できるだけ簡単な言葉で説明しようとして作成した全15話にわたる小説タッチの記事です。
カウンセリング、カール・ロジャーズ、パーソナリティ理論、来談者中心の積極的傾聴、人間理解に興味のある方は読んでみてください。
第13話 学習9日目~命題14、15~
クー
はい、あの女の子の夢でした。でも変化はありませんでした。
クー
はい。夢の中の自分はニンジンをもっていて、泣いている女の子に渡そうとするんだけど、女の子は、私食べられないのって言って受け取ってくれなくて…。
先生
うん。受け取ってくれなくてね。悲しいですか?って聞いてみることはできたかい?
クー
いえ。聞いてみようと頑張ったんですけど、やっぱり言葉が声にならなくて…。
先生
ふむ…。頑張ったんだけどやっぱり言葉が声にならなかったんだね。
先生
おにぎりならその女の子も食べてくれるよ。おにぎりはとても素晴らしいものだからね。
先生
さあ、奥の部屋にいらっしゃい。実はもうおにぎりを作る準備はしてあるんだ。
クーは、奥の部屋で、老ウサギにおにぎりの作り方を丁寧に教えてもらった。
クー
やった、これで自分もおにぎりが作れるようになった!おにぎりなら、夢の中のあの子は食べてくれるかな…。
先生
きっと食べてくれるさ。おにぎりは人間の大好きな食べ物だからね。
その後クーは、初めて自分で作ったおにぎりを先生と一緒に食べて一息ついた。
命題14
心理的不適応は、有機体が、重要な感官的・内臓的経験を意識することを拒否し、したがって、そのような経験が象徴化されず、自己構造のゲシュタルトへと体制化されないときに存在する。この状況が存在するとき、基本的もしくは潜勢力的(potential)な心理的緊張がある。
(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)
心のバランスが崩れるときは、身体が、ありのままの体感を意識することを拒否し、その体感を認識できずに、無いことにしてしまっているときである。
このとき、心は、その認識できない体感を説明できない無意識的な緊張として感じる。
クー
ふむぅ。人間の身体は、ありのままの体感を認識できなくなってしまう。
先生
そう。自分という感覚にとって脅威になってしまうような体感は、それが身体にとってどんなに重要なものであっても、自分のものとして認識できなくなってしまうんだ。
クー
自分という感覚にとって脅威となってしまうような体感…。
先生
そう。そして、身体にとって重要な体感を認識できないときほど、心が感じる緊張は強くなるんだよ。
クー
身体にとって重要なありのままの体感が、どうして自分という感覚の脅威になってしまうんですか?
先生
それは、命題9でもふれたけど、自分という感覚の存在自体が、自分の生存にとって重要な役割を担う他人との評価的な相互作用で生まれるからだね。
クー
自分という感覚の存在自体が…。重要な他人の評価で生まれるから…。
先生
そう。ご飯を沢山食べる子は、ダメな子、価値がない子、という評価を自分にとって大事な人に受けてきた人は…。
クー
ありのままの食欲が脅威となり、空腹を認識できなくなり、お腹が減るたびに、心に強い緊張感をもってしまう…。
先生
そういうことになるね…。さて、命題14はこれくらいでいだろう。次は命題15だね。頑張ろう!
命題15
心理的適応は、自己概念が、象徴のレベルにおいて、有機体の感官的・内臓的経験をことごとく自己概念と首尾一貫した関係に同化しているか、もしくは同化するであろうときに存在するのである。
(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)
先生
さあ、命題15まできたね。ここは命題14の逆だね。言い換えてみるよ。
ありのままの体感が、言語化され、ことごとく自分の一部として認識されているとき、心はバランスを保つことができ、安心を感じる。
クー
ふむ。ありのままの体感が、ことごとく自分の一部として認識されれば、安心できる…。
先生
そう。ありのままの体感を認識することに何の脅威もない状態。
感じたところが、引っ掛かりなく、そのままスッと言葉になるような状態。
こういうとき人間は心のバランスがとれて、安心しているようだね。
クー
脅威がなくなれば、ありのままの体感を認識できる…。ありのままの体感が認識できれば安心できる…。
先生
心のバランスが取れ、ありのままの体感を認識できるようになり、緊張がなくなったとき、人間は、本当の自分になれた、というような感覚を持つようだよ。
ウサギさんはパタパタと後片付けを始める。
クー
はい、大丈夫です。この前つまずいたあの石の存在は、わたしにはもう見えます!
ウサギさんはいそいそと小さな建物をあとにしていった。
先生
私にはもう見えます、ね。見える、聞こえる…。この経験は…なんと奥深いことか…。
老ウサギは深くため息をついて、カーテンを開けた窓から、オレンジ色の夕焼けを見つめた
第14話へ続く