この記事では、カール・ロジャーズのパーソナリティ理論に出てくる命題12、13についての説明に挑戦しています。
命題12のポイントは、人間の行動は、これまで積み上げてきた私という感覚の範囲で選ばれるということです。
命題13のポイントは、私という感覚を超えて起こしてしまった行動は、自分のものとして認められないということです。
カール・ロジャーズのパーソナリティ理論をなんとかわかりやすく説明できないかと考え、できるだけ簡単な言葉で説明しようとして作成した全15話にわたる小説タッチの記事です。
カウンセリング、カール・ロジャーズ、パーソナリティ理論、来談者中心の積極的傾聴、人間理解に興味のある方は読んでみてください。
第12話 学習8日目~命題12、13~
小さな建物の中、年老いたウサギと、小さなウサギが向かい合っている。
命題12
有機体によって採択される行動のし方はほとんど、自己概念と首尾一貫しているようなし方である。
(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)
私の身体が選択できる行動は、これまで積み上げてきた私という感覚と矛盾しない行動である。
クー
なぜ私の身体は、要求を満たすための行動を、私という感覚と矛盾しない範囲でしか選べないのでしょうか?
先生
ふむ…。私の身体は、生きていくための様々な欲求と同時に、私でなくてはならないという強烈な欲求をもっているからじゃないかな。
先生
そう、私という感覚は、他と別であることを証明し続けるはたらきの結果生まれたものだからね。
クー
私であるという感覚は、他と別であることを証明し続ける結果生まれる…。
先生
そう。私の身体には、私でなくてはならないという強烈な欲求がある。そしてそれが、その他の様々な欲求といつもせめぎ合っている。
クー
私でなくてはならないという感覚が、その他の欲求とせめぎ合っている…。
命題13
ある場合には、行動は、象徴化されていない有機的な経験や要求から起こることもあるであろう。このような行動は、自己の構造と矛盾するであろうが、しかしこのような場合には、その行動はその人自身によって“自分のものとして認められ”ないのである。
(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部第4章より引用)
行動は、私という感覚と矛盾する欲求から起こることがある。
その場合、その行動は、自分のものとして認められない。
先生
生きているとね、私でなくてはならないという欲求が、その他の欲求に負けてしまうことがあるんだ。
私という感覚を超えたところで行動が起こってしまう。
そんなとき、私たちは、私という感覚を超えて起こった行動を、自分のものとして感じられないんだよ。
先生
寝言や、寝相を誰かに指摘されたときの、居たたまれない気持ちを思い出すといいかもね。
クー
あぁ。それはわかります!寝ているときの自分の行動は、自分の意志ではないので、自分の行動とは思いたくないですよね。
先生
それと同じように、私という感覚から矛盾する強烈な欲求に動かされてしまったときは、それが自分の行動とは思えないんだ。
先生
たとえば、ご飯をたくさん食べるとことは意地汚いことだ、という価値観が強烈に身につくような環境の中で、私という感覚が育った人が、あるとき、我慢できずにたくさんご飯を食べてしまったときは、「これは、私の行動ではない。」という感覚をもつんだ。
先生
そう。あの時の自分は自分じゃなかったんだ、と感じるものなんだよ。
クー
ふむぅ。人間は、私ではなくてはならないという強い欲求をもち、その欲求と矛盾しない形でしか、行動できない。
だけど、たまに、矛盾する形の行動もしてしてしまう。その時の行動は、自分の行動として感じられない…。
先生
反対に、私でなくてはならないという欲求が、その他の欲求を抑え続けてしまうこともある。それが、シンプルな生存のための欲求だったとしてもね。
先生
人間は、私でなくてはならないという欲求のままに、生存欲求を抑え続け、死んでしまうことだってあるんだ。
先生
私は私でなければ、存在できない。
私という感覚が脅かされることは、私という存在が脅かされることと同じなんだ。
私という感覚を守るために、私として存在するために、死に向かうことさえある。
それが人間なんだ。
クー
人間は、私として存在するために生命をかけてしまう…。
大きなため息をつくクー。
クー
ただ、夢の中のあの白い服の女の子と友達になりたいんです。
先生
ただ、夢の中のあの白い服の女の子と友達になりたいんだね。
クー
はい。夢の中のわたしはきっと人間じゃないから、夢の中のあの子に向かって言葉を話せないんだと思うんです。
先生
夢の中のクーはきっと人間じゃないから、あの子に向かって言葉を話せないと思う…。
クーは真剣な目で老ウサギを見つめている。
クー
わたしは、夢の中のあの子に元気になってほしいんです。
クー
だって…、あの子いつも泣いているし、悲しいんです。
先生
あの子いつも泣いているし、悲しいんです。…悲しいのは誰?
しばしの沈黙が流れる。
パタパタと後片付けをするクー。
先生
あ、そういえば、昨日、キョロキョロして帰ってどうだった?見ているのに見えてないものが見えたかい?
クー
ああ、そうだった。昨日、キョロキョロして走ってたら、足元の石につまずいて、ゴロゴロ転がっちゃったんです。
先生
あらら。足元の石につまずいて、ゴロゴロ転がっちゃったのね。
クー
はい。そしてパッと顔を上げたら見覚えのない大きな木が目の前にあって…。
クーは、タカタカと小走りに建物をあとにしていった。
先生
自分のところではなく、あの女の子のところを聞けるかどうか、ね。
老ウサギはポツリとつぶやき、部屋の奥へと入っていった。
第13話へ続く