光のいのり

ウサギと積極的傾聴

【ウサギと学ぶ】カール・ロジャーズのパーソナリティ理論・命題11

ロジャーズ_パーソナリティ理論_ウサギ_11

この記事では、カール・ロジャーズのパーソナリティ理論に出てくる命題11についての説明に挑戦しています。

命題11のポイントは、経験は、素直に言語化され、率直に自分の一部として感じられるもの、自分に関係ないから無視されるもの、そして、自分の脅威になるから拒否または、歪められた形になるものがある、ということです。

カール・ロジャーズのパーソナリティ理論をなんとかわかりやすく説明できないかと考え、できるだけ簡単な言葉で説明しようとして作成した全15話にわたる小説タッチの記事です。

カウンセリング、カール・ロジャーズ、パーソナリティ理論、来談者中心の積極的傾聴、人間理解に興味のある方は読んでみてください。

第11話 学習7日目~命題11~

クー
クー
自分は、時々不思議な夢を見るんです。
先生
先生
…ふむ。

クーは、自分の手には少し大きい、魚の絵の描いてある湯飲みで温かいお茶をすすりながら、ポツポツと話し出す。

クー
クー
わたしは夢の中の森で、人間の女の子と一緒にいるんです。
先生
先生
うむ。うむ。
クー
クー
その女の子は白い服を着ていて、髪が長くて…。そして人間なのに森の中に裸足でいるから足は傷だらけで…
先生
先生
ふむ。人間なのに、森の中で裸足でね。
クー
クー
はい…。そうなんです…。それでその女の子…。いつも泣いているんです。
先生
先生
いつも泣いている…。
クー
クー
はい。なんか声をかけてあげたいと思うんですけど、夢の中のわたしは言葉を話せなくて…。
先生
先生
その夢の中では、クーは言葉を話せないんだね。
クー
クー
はい。それでわたしは、なぜかいつもニンジンを持っていて、それをその女の子に渡そうとするんですけど…。
先生
先生
ふむふむ。
クー
クー
女の子は泣きながら、ごめん、わたし食べられないの…って。
先生
先生
泣きながら、ごめん、私食べられないの…って。
クー
クー
それで、この女の子はニンジンが嫌いなのかな、とか、それとも人間の中にはご飯を食べなくても大丈夫な人がいるのかなぁとか考えているうちに目が覚めるんです。
先生
先生
ふむ。考えているうちに目が覚めるんだね。
クー
クー
はい…。
先生
先生
…。
クー
クー
あの、先生…。
先生
先生
うむ…。
クー
クー
なんで今日こんなにのんびりなんですか?
先生
先生
うん?
クー
クー
いつもは、わたしが椅子に座ったら、すぐに学習が始まるのに。今日は、朝からお茶をいただいたりしちゃって…。つい、夢の話なんかをしちゃいましたよ。
先生
先生
ふふ、実はね…。
クー
クー
はい。
先生
先生
この本の後半の命題は、人間の心理的不適応のメカニズムにふれていくところが多くてね。
クー
クー
しんりてきふてきおう…。
先生
先生
うん。具体的な例をあげながら学習していくのもなかなか難しいなぁと思ってね。ちょっと億劫になっちゃってね。
クー
クー
ちょっと億劫になっちゃったんですね。
先生
先生
ふふ。そうなの。

老ウサギは静かに笑う。

先生
先生
しかし、もしかしたら、クーの夢の中に出てくる、その白い服の女の子が学習を助けてくれるかもしれないね。
クー
クー
え?
先生
先生
さて、じゃあ頑張って命題11にチャレンジしよう。
クー
クー
はい、頑張ります!

命題11

いろいろの経験が個人の生活において生起すると、それらの経験は、

(a)なんらかの自己との関係へ象徴化され、知覚され、体制化されるか、

(b)自己構造との関係が全然知覚されないので無視されるか

(c)その経験が自己構造と矛盾するので、象徴化を拒否されるか、もしくは歪曲された象徴化を与えられるかのいずれかである。

(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)

先生
先生
さて、読み替えていくよ。

人間の様々な経験は、

a素直に言葉になり、率直に自分の一部として感じられるか、

b自分と直接関係ないから、見えたり、聞こえたり、感じたりされず、無視される。

cまた、その経験が、それまで積み重なってきた自分という感覚にとって、ひどく都合が悪かったり、自分という感覚そのものを脅かすものだったりすると、 その経験は、自分の一部として認められないか、歪んだ形で表明される。

先生
先生
aは簡単だね。

a素直に言葉になり、率直に自分の一部として感じられる経験。

先生
先生
お腹が空いた。眠い。散歩は心地よい。など、経験が素直に言葉になり、率直に自分のものとして感じられるということ。
クー
クー
はい。
先生
先生
bは結構面白いところなんだ。

b自分と直接関係ないから、見えたり、聞こえたり、感じたりされず、無視される経験。

クー
クー
面白いところ…ですか?
先生
先生
例えばね、今、耳を澄ましてごらん?
クー
クー
…。

クーは、長い耳をピクピクとさせている。

先生
先生
何が聞こえる?
クー
クー
特に何も…。
先生
先生
特に何も…?
クー
クー
…。
先生
先生
…。
クー
クー
強いて言えば、部屋の奥からポットのお湯がコポコポいっているのが聞こえます。
先生
先生
うん。ポットの音が聞こえたね。
クー
クー
はい。コポコポいっています。
先生
先生
そのポットの音は耳を澄ますまで聞こえてなかった?
クー
クー
…はい、聞こえてませんでした。
先生
先生
でも、耳を澄ましたら聞こえたね。
クー
クー
…はい。あれ?
先生
先生
うん?
クー
クー
言われてみると、このポットの音って、耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな音でもないんですね。
先生
先生
このポットの音って、耳を澄まさなければ聞こえないほど小さな音でもない。
クー
クー
はい。今は、先生とお話ししながらでも聞こえてきます。
先生
先生
ふむ。実はね、クーの身体は、ポットのお湯のコポコポって音をずっと経験していたんだよ。だけどクーがクーであることにとって、その音は関係ないので無視されていた。
クー
クー
わたしがわたしであることに関係ないから無視されていた…。
先生
先生
そう。身体は聞いているのに私には聞こえていない。身体は見ているのに私には見えていない。この辺りを実感できるかどうかは、とても大事な学習だね。
クー
クー
身体は聞いているのにわたしには聞こえていない。身体には見ているのにわたしには見えていない。
先生
先生
そう。この本には、潜在知覚という言葉でも表現されているね。
クー
クー
ポットのコポコポは聞こえるようになりました。さっきまで聞こえなかったのに。
先生
先生
クーの身体は、クーが思う以上にいろんなものを聞いたり、見たりしているようなんだよ。修業を積めば積むほど、クーの身体に聞こえているもののまま、見えているもののままに、クーにも物事が聞こえたり、見えたりするようになるようだよ。
クー
クー
自分の身体に聞こえているもののまま、見えているもののまま…。
先生
先生
さて、次はcだ。

cそれまで積み重なってきた自分という感覚にとって、ひどく都合が悪かったり、自分という感覚そのものを脅かすものだったりする経験は、自分の一部として認められないか、歪んだ形で表明される。

先生
先生
例をあげてみるね。
クー
クー
お願いします。
先生
先生
さっきあなたが話をしていた、夢の中の女の子ね…。
クー
クー
はい。
先生
先生
痩せていたかい?
クー
クー
言われてみれば…。
先生
先生
クーが夢の中の女の子にニンジンを渡そうとしたときに、その女の子が言った言葉ね、私に印象的に残っているんだよ。
クー
クー
ごめん、私食べられないの…って。
先生
先生
そう。ごめん、私食べられないの…って言葉ね。
クー
クー
はい。
先生
先生
あなた、夢の中でいつニンジンをもっていて、それを女の子に渡そうとするって言ってたね。
クー
クー
はい。なぜかいつもニンジンをもってます。
先生
先生
何か聞こえないかい?
クー
クー
え?
先生
先生
夢の中のあなたが耳を澄ませば何か聞こえないかなと思って。今は夢の中ではないけど、思い出せないかな?
クー
クー
うーん。
先生
先生
…。
クー
クー
うーーん。
先生
先生
うむ。
クー
クー
…。
先生
先生
…。
クー
クー
…グゥってお腹の音?
先生
先生
聞こえていたね。
クー
クー
そうだ、あの女の子、お腹空いているときに鳴る音が時々してた。
先生
先生
だから、夢の中のあなたは、いつもニンジンをもっているんだね。だけど、女の子はごめん、私食べられないのって…。
クー
クー
お腹が鳴るくらいお腹が空いているのに…。
先生
先生
お腹が鳴るくらいお腹が空いているのにね…。
クー
クー
…。
先生
先生
もしかしたらね、その女の子の身体のお腹が空いているという経験は、それまで積み重なってきた、その子の自分という感覚にとって、ひどく都合が悪かったり、自分という感覚そのものを脅かすものだったりする経験なのかもしれない。
クー
クー
なんでですか!!

急に椅子から立ち上がって、声を荒げるクー

先生
先生
なんでですか…。
クー
クー
なんで、都合が悪いんですか!お腹が空いたら、ニンジンを食べる、それだけじゃないですか!なんで、それがあの子を脅かすことになるんですか!
先生
先生
なんで、それがあの子にとって都合が悪く、脅かすことになるんですか、ね。
クー
クー
それじゃ、それじゃ、あの子は元気になれないじゃないですか!ずっと食べなかったら、死んじゃうかもしれないじゃないですか!
先生
先生
それじゃ、あの子は元気になれない。ずっと食べなかったら、死んじゃうかもしれないじゃないですか、ね。
クー
クー
…。
先生
先生
…。
クー
クー
ご、ごめんなさい。なんか、すごく怒ってしまった…。あわわあわわ。
先生
先生
なんかすごく怒ってしまったようだね。

老ウサギは、スッと立ち上がり、奥の部屋のコポコポとお湯の沸いたポットを使ってお茶をいれてくる。

先生
先生
どうぞ…。
クー
クー
あ、ありがとうございます。

ふーふーと冷ましながらゆっくりとお茶をすする小さなウサギさん。

先生
先生
少し、落ち着いたかな…。
クー
クー
すいません…。なんであんな大きな声出しちゃったんだろう…。
先生
先生
うん。まさに情動的だった。
クー
クー
ううう。

頭を抱えるクー。

先生
先生
例えば、今のクーの大きな声になったところも例にして考えてみるとね。
クー
クー
ううう…はい。
先生
先生
もしクーが急に怒って、大きな声になったという経験が、クーの自分という感覚にとって、ひどく都合が悪かったり、自分という感覚そのものを脅かすものだったりする経験だった場合、あなたは、自分は怒ってないと主張したり、そんなに大きな声ではなかったと主張したり、ひどくなるとその時のことをすっかり忘れてしまっていたり、何か自分に特別の出来事が起こったんだと物語を作ったりしてしまうことがあるんだよ。
クー
クー
むむむ。
先生
先生
これが、自分の一部として認められないか、歪んだ形で表明される経験というやつだね。
クー
クー
自分は…。怒っちゃいました。声もとても大きくなりました。申し訳ないです…。
先生
先生
ふふ。怒ってしまったという経験、大きな声になってしまったという経験は、クーの自分という感覚にとって、ひどく都合が悪かったり、自分という感覚そのものを脅かすものではなかったようだね。
クー
クー
はい…。なんとか…。
先生
先生
ありがとう…。歪んだ形でない、そのままの経験が語られるところを聞くと、私はとてもホッとするんだ。
クー
クー
先生は、歪んでいない、そのままの経験が語られるところを聞くとホッとするんですね。
先生
先生
そう…、そうなんだ。
クー
クー
…。
先生
先生
…?
クー
クー
私は…わたしは…悲しかったのかもしれない。
先生
先生
私は、悲しかったのかもしれない。
クー
クー
あの女の子が、お腹が減っているという当たり前のことを経験できないということが…。
先生
先生
あの女の子が、お腹が減っているという当たり前のことを経験できないということがね。
クー
クー
はい。
先生
先生
当たり前のこと、ね。
クー
クー
…はい。
先生
先生
あなたの当たり前と、あの子の当たり前は違う…。そこだけは、忘れないでね。
クー
クー
わたしの当たり前と、あの子の当たり前は違う…。
先生
先生
そう。
クー
クー
あの子の当たり前…。
先生
先生
さて、今日は、始まりをのんびりしちゃったからここまでにしておこう。
クー
クー
はい!

クーはいそいそと後片付けを始める。

先生
先生
そうだ、クー。まだ外は暗くなってないから帰り道ね。
クー
クー
はい?
先生
先生
いろいろ意識して見ながら帰るといいよ。見ていたのに見えていなかったものが、見えるかもしれないから。
クー
クー
はい、やってみます!
先生
先生
ふふ。じゃ、またね。

クーは、ペコッと会釈をして建物を出ていき、本当にわかりやすくキョロキョロしながら帰っていった。

先生
先生
他人を思い、考えるより早く怒り、そして悲しむ…。なんとも人間らしい心の動きだね。

老ウサギはポツリとつぶやき、魚の絵のついた湯飲みに入ったお茶をグイッと飲み干した。

第12話へ続く

黒田明彦の電話で積極的傾聴60分3000円

あなたのもとに届いている、あなただけの言葉、聞かせてください。

あなたを救うために、あなたの身にやってくる言葉と出会うための積極的傾聴。