この記事では、カール・ロジャーズのパーソナリティ理論に出てくる命題5についての説明に挑戦しています。
命題5のポイントは、行動とは身体が欲するものを満足させるために起こるものであるということです。
カール・ロジャーズのパーソナリティ理論をなんとかわかりやすく説明できないかと考え、できるだけ簡単な言葉で説明しようとして作成した全15話にわたる小説タッチの記事です。
カウンセリング、カール・ロジャーズ、パーソナリティ理論、来談者中心の積極的傾聴、人間理解に興味のある方は読んでみてください。
第6話 学習4日目前半 命題5
また次の日、ノックの音を聞いて、老ウサギは建物のドアを開ける。
いつものように小さな椅子にちょこんと座るクーが、少し元気がないように老ウサギには見えた。
クー
…昨日おうちに帰って、お布団に入ったときに、頭の中にいろんな言葉がたくさん飛び交って…。
先生
昨日、お布団に入ったときに、頭の中にいろんな言葉が飛び交って…。
クー
なんだか大事な発見をいっぱいしたような気がしたんです。
先生
なんだか大事な発見をいっぱいしたような気がしたんだね。
先生
…朝起きたら、みんなすっかり忘れてしまったんだね。
ちょっとだけ涙ぐむクー。
先生
私も昔、よくあったなぁ。流星のように言葉が降る夜が…。
先生
あなたにとって必要なときに、必ずもう一度やってきてくれるよ。
静かに微笑む老ウサギ。
ホッとしたような様子のクー。カバンから水筒を取り出し、クピクピと水を飲んだ。
命題5
行動とは、基本的には、知覚されたままの場において、有機体が、経験されたままの要求を満足させようとする目標指向的企てである。
(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)
行動とは、基本的には、見えたり、聞こえたり、感じられたりした場面や出来事において、私の身体が、欲するものを満足させようとするために起こる。
先生
ここでは、行動というところにスポットがあたっているね。
クー
行動は、私の身体が欲するものを満足させるための動きである…。
先生
少し感覚的な話をするとね…。私は、行動とは、私の意志を超えたところで起こっていると言いたいんだ。
先生
そう。ちょっと、常識的な捉え方じゃないかもしれないけどね…。
先生
そうだろうねぇ…。ふむ…。する世界と、なる世界の話をしてみようか…。
先生
クーは、私がする、私がしているというように、ひとつひとつの行動はすべて自分の意志で行っているという感じ、なじみ深いでしょう?
先生
これまで、ちゃんとしなさい、しっかりしなさい、こうしなさい、ああしなさい、っていろんな人に何度も言われてきたでしょ?。
先生
そして、私がしている、私がやっている、…みたいに自分の行動はすべて自分の意志でコントロールできているということが前提の思考になっている…。
先生
私は、こういう捉え方を“する世界”とよんでいるんだ。
先生
一方で、もっと広くて優しい世界がある。それが“なる世界”、ただ私に“なる世界”。
先生
私がしている、私がやっているのように、行動を「する」の次元で捉えるのではなくて、今、私は、こうなっている、「なる」の次元で捉えていく感じだね。
先生
そう。それは、今、ここの私の行動を、ただ聞かせていただくような世界。
先生
今、私は、先生の話を聞いている、になっていて、今、私は、混乱になっている。
先生
こういう感じで、~する、~しているという言葉を、~なる、~なっているという言葉に置き換える修業をしていくと、自分の身体の動きを現実として捉えることが上手になっていくんだ。
クー
わたしはよく…、こうしたくないのにこうしてしまう。こうしたいのに、こうできないってことがあるんです…。
クー
自分の身体を思い通りに動かせないことは、自分が悪いからだと思っていました。
クー
だから、今、先生に“する世界”より広い“なる世界”があると聞いて、少しホッとしました。
クー
自分はこうしたくないのに、こうなっちゃんだよって…。
先生
…自分はこうしたくないのに、こうなっちゃうんだよって。
先生
“する世界”を“なる世界”として捉えられるようになることは、現実が現実として見えるようになるということ。そして、私達は現実が見えると、ホッとするんだよ。
先生
そう。私達の行動は、私達の意志を超えて起こっているという現実がね。
先生
クーは、お腹は空いているかい?今日はこんなものを用意してみた。
老ウサギは、向こうのテーブルから食料の載った皿を持ってくる。
先生
そう、人間の世界に古くから伝わる伝統的な食べ物でね、ご飯を三角に握って食べるんだ。おいしいよ。
クーは初めて見る食べ物に目を白黒させていた。
老ウサギは皿から三角の食べ物をスッと取り、パクリと頬張った。
クーもスッと皿から三角の食べ物を取り、その三角の食べ物をまじまじと見つめている。
クーが、横目で老ウサギを見ると、老ウサギは幸せそうな顔でおにぎりを頬張っている。
クーも思い切ってパクリとおにぎりを頬張ってみる。
先生
おにぎりっていうのはね、ご飯を握るときに、中に具を入れるんだよ。今日はシャケを入れてみたんだ。
先生
ふふ。ゆっくりお食べ。食べ終わって少しのんびりしたら、また学習を再開しよう。
クーが初めて食べたおにぎりは、なんだか優しい味がしていた。
第7話へ続く