カウンセリング学習界隈では、同情と共感は違う!とか、共感と感情移入的理解の違いとは?などと談議が交わされるものです。
果たして、この3つは、どれほど明確に区別することができるのでしょうか。
以前書いた記事では、感情移入的理解と共感は区別していませんでしたが、この記事では、その2つもはっきり区別してみました。
さて、これらを明確に区別することができると、私たちの日常生活にも良いことはあるのでしょうか。
私の体験的理解を書いてみようと思います。
興味のある方は読んでみてください。
【同情、感情移入的理解、共感の違い】同情とは?

★お題
A「昨日彼氏にふられてしまって、本当に悲しい。他のことが何も考えられないくらいに辛い。」
同情的応答
B「私も3ヵ月前に彼氏と別れたばかりだから、あなたの気持ちわかるわ。本当辛いよね。でも大丈夫。私もとても辛かったけど、立ち直れたよ。だから、あなたも立ち直れるよ!」
これは、日常的に行われている、どちらかというと思いやりのある対応だと言えそうです。
Bさんは、自分の過去の経験を思い出し、それと照合しながらAさんとやりとりしています。
このやりとりでBさんが向き合っているのは、今、ここのAさんではなく、過去のBさん自身の感情である、と言えますね。
ですから、Bさんの表明は「私は、今のあなたの気持ちがわかります。」というよりも、「私は今、あなたの言葉によって以前の私の感情を思い出しています。」というほうが近いのです。
同情的応答のメリット
相手が自分の体験、感情を一般化したがっている場合。
私おかしくないよね?普通だよね?大丈夫だよね?
このように不安になっている場合は、私にも似たような経験がある、ということを伝えることで、相手を安心させることができます。
同情的応答のデメリット
相手が、自分の感情をもっとはっきりと、わかりたがっている場合、自分の体験を個別化、独自化したがっている場合、それを一般化するような発言は、相手をがっかりさせてしまいます。
単純に、同情を求めていない相手には、同情しても噛み合わないということですね。
今は、あなたのことなんて聞いてないですよ。
私の経験が、あなたと同じだとは全然思えませんが…。
相手が自立的思考の強い人、純粋な人の場合は、こんな感想を持つこともあるでしょう。
【同情、感情移入的理解、共感の違い】感情移入的理解とは?

★お題
A「昨日彼氏にふられてしまって、本当に悲しい。他のことが何も考えられないくらいに辛い。」
感情移入的理解
C「そう、ふられてしまったんだね。本当に悲しいんだね。他のことが何も考えられないくらいに辛いんだね。」
ここからは、カウンセリング的応答に関係してきます。
つまり、相手を他の誰とも違う、たった独りの人間として、とことん尊重するというやりとりになってきます。
感情移入的理解は、聞き手が自分の経験を思い出して、照合しながらやりとりをすることは一切ありません。
感情移入的理解の対象は、自分(聞き手)の過去の経験ではなく、今、ここの相手(語り手)であるということです。
今、ここの相手の言葉の相(すがた)や、態度や、仕草から、相手の感情を相手の感情として理解するのです。
ですから、どこまでいっても「あなたは悲しいのですね」「あなたは辛いのですね」と、やりとりの主語が‟私”ではなく、‟あなた”になります。
感情移入的理解には、私(聞き手)が、相手(語り手)の語ったことについてどう思うか、は一切必要ありません。
相手の言葉や態度から、相手の感情をあくまで相手の感情として理解しようとする動き。
これが感情移入的理解です。
感情移入的理解のメリット
これは、私の体験ですが、どこまでいっても私の感情を、私の感情として聞いてくれる相手を前にすると、私はどこまでも自由に、激しく、私の感情を表出することができるのです。
私の感情を私の感情として、どこまでも理解しようとしてくれるということは、相手が、こちらの感情に巻き込まれず、どこまでもフラットな気持ちで聞き続けてくれるということです。
そんなときは、私は本当に自由に自分の感情を表出することができます。
それは、本当に貴重で、ありがたいことです。
感情移入的理解のデメリット
同情して欲しい、感情を相手にもらってもらいたくて、巻き込みたくて、一緒に楽しんだり、苦しんだりして欲しい。
とにかく、この自分の喜びや、苦しみを誰かにシェアしたいという気持ちが強い人、相手の自我を利用して語ることに慣れている人には、ただ冷たく感じるだけの応答になってしまうかもしれません。
また、語り手は、聞き手がまったく自己表出をしないことに、とまどいや、寂しさ、時には失礼を感じることもあるかもしれません。
【同情、感情移入的理解、共感の違い】共感とは?

★お題
A「昨日彼氏にふられてしまって、本当に悲しい。他のことが何も考えられないくらいに辛い。」
共感的応答
D「そうなんだ…。辛そうな言葉、そして震えた声だね。目に涙がいっぱい溜まっているように見えるよ。私は、今、あなたに強い悲しみを感じているよ。」
これもカウンセリング的関わり、つまり、相手を他の誰とも違う、たった独りの人間として、とことん尊重するというやりとりになってきます。
共感的応答では、感情移入的理解と同様に、自分の過去の経験を思い出して、照合するようなことは一切ありません。
共感の対象は、自分の過去の経験ではなく、今、ここの相手であるということです。
共感とは、今、ここの相手の言葉の相(すがた)や、態度、仕草から‟私”が感じたことを伝えるということです。
あなたの言葉から、あなたの素振りから、今、私は、強い悲しみを感じました。
このように、今の私のところ、相手と今を共にしている‟私”の感じたところを伝える行為。
これを共感と言いたいのです。
繰り返しますが、上述した感情移入的理解はあくまで相手の悲しみを相手のところとして聞いていく行為です。
だから、やりとりの主語は‟あなた”になります。
しかし、共感の場合、今、ここ、相手と共にいる‟私”、感じている‟私”のところを伝えるので、主語は‟私”になります。
「私は今、ここで、あなたから強い悲しみを感じています。」
これが共感です。
共感のメリット
上述した感情移入的理解は、自分のところを置いて、相手のところを、相手のところして徹底的に聞いていく…。聞き手が空気のようになっていくような関わりです。
それに対して、共感は、はっきりと「人間」を感じます。
今、ここ、共にある、もう一人の独りの人間を感じます。
その影響力は大きく、やりとりの中で大きな学習や刺激が生まれます。
たった独りの人間同士が、尊重し合う。
混じりっけのない、純真な人間交流が感じられます。
それは、もっとも効果的に人間を育てる交流だと思います。
共感のデメリット
真の共感は、相手に必ずしも同意を示す、同調的な内容を伝えるというわけではないので、伝えた内容が相手の意に添わないこともあるかもしれません。
それによって、相手は、不信を感じたり、ときには傷ついてしまうこともあるかもしれません。
今ここ、共感した内容を伝える場合は、「これは、あくまで今ここで、私が感じたことなんだけど…」と、私のところであることを強調して伝える必要があるでしょう。
それは、相手がしっかりと「自分のところ」と「相手のところ」を聞き分けやすくなるように、とても大事な配慮なのです。
【同情、感情移入的理解、共感の違い】おわりに

同情、感情移入的理解、共感の違い。
どれも、相手を思いやる気持ちがなければなかなかできないことだと思います。
大事なことは、自分と相手は全く別の存在であるということを厳しく自覚することです。
そして、あくまで今、ここ、の相手に反応するということ。
それを踏まえた上でやりとりができるとき、相手は本当に自由に、自分自身になることができ、そして、理解してもらえた、感じてもらえたと、嬉しくなることもできるのです。
そんなことを意識して、ちょっとやってみてはいかがでしょうか。
「わかってくれて、ありがとう」
あなたのまわりに、そんな言葉が溢れかえりますように。
黒田明彦