この記事では、カール・ロジャーズのパーソナリティ理論に出てくる命題3、4についての説明に挑戦しています。
命題3のポイントは、身体は目的に向かって各部位が連携して機能しているということ。
命題4のポイントは、生物は成長に向かう渇望を持っているということ。
この命題4は、カウンセリングにおいて、非常に大事な仮説となっています。
カール・ロジャーズのパーソナリティ理論をなんとかわかりやすく説明できないかと考え、できるだけ簡単な言葉で説明しようとして作成した全15話にわたる小説タッチの記事です。
カウンセリング、カール・ロジャーズ、パーソナリティ理論、来談者中心の積極的傾聴、人間理解に興味のある方は読んでみてください。
第5話 学習3日目 命題3・4
次の日。クーは、また昨日と同じくらいの時間にやってきた。
クー
本当に、自分の感じ方、受け取り方がかわると、現実まで変わってしまうものなのでしょうか?
難しい顔をして首を傾げているクー。
先生
まぁ、そう言われても、なかなか実感がわかないだろうね。
先生
カウンセリングの学習を続けているとね、ときどき、本当に世界が変わるような変化をすることがあるんだ。
先生
そう。目に映る色、耳に入ってくる音、感じられる空気、すべてがガラッと変わるような大きな変化をすることがある。
先生
そうだね。変わったのは私自身なのは間違いなのだろうけど、本当に世界が変わったような感覚だったよ。
先生
うん。クーならきっと経験できるよ。さて、今日は命題の3にいこう。
命題3
有機体は、一つの体制化された全体として、この現象の場に反応する。
(命題はロージァズ全集第8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)
先生
うん。よくわからないんだね。さて、出来るだけ簡単な言葉に言い換えてみよう。
人間の身体は、一つのまとまりとして、それぞれの部位の機能を補い合いながら、人間それぞれの経験の世界の場面や出来事に反応する。
先生
人間の身体の各部位は、それぞれがバラバラに機能しているのではなくて、身体全体としての目的に向かってそれぞれが連携しているということだね。
先生
そうだね。ある部位が機能を失うと、他の部位がそれを補うように機能する。
例をあげると、視力を失うと、耳や鼻がそれ以前よりも非常に鋭くなって、視力を失った身体の生活を維持しやすくなるという感じかな。
先生
この、目的を達成するための身体全体の連携は、心にも言えることなんだ。心も身体の一部として、全体として連携している。
先生
そうだね。それじゃ、今日はこのまま、命題4にいってしまおう。
命題4
有機体は、一つの基本的な傾向と渇望をもっている。すなわち体験している有機体を現実化し、維持し、強化することである。
(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)
人間の身体は、自立し、成長していくことを心から切実に望んでいる。
クー
人間の身体は、自立と成長を心から切実に望んでいる…。
先生
これは、この本の考え方の中でもとても重要なところだね。
先生
人間はね、何の問題もなくスムーズに成長できるものではなくてね、必ず苦闘や苦痛を通って成長するものなんだ。
先生
それでも、人間の身体は、成長のための前進的行動を選ぶんだ。
クー
人間の身体は苦しかったり、痛かったりするのに、成長を選ぶ…。
先生
カウンセリングは、この人間の身体の切実な望みを唯一の頼りとしているんだ。
クー
なぜ、人間の身体は、苦しみや痛みに耐えながらも成長することを望むのでしょうか?
先生
人間だけではなく、あらゆる生物がもっている方向性なんだ。
先生
そう。それは、宇宙のはたらきといってもいいんだよ。
先生
この宇宙では、拡大、前進、自律、そういう方向にはこばれていく大きな力がはたらいている。
クー
わたしも、わたしの身体も、もっともっと成長したがっているのでしょうか?
クー
先生、わたしはどうしたら今よりも成長できるでしょうか?
先生
ふふっ。ご飯をたくさん食べて、たくさん運動して、たくさん寝るといいよ。
クーは、カバンからメモ帳を出して、メモをしている。
先生
そう…。私の身体はいつだって言葉にしてほしがっている。
先生
私の身体は、いつだって、自分に起こっていることを分かりたがっている。
先生
そう。分かるということは、心が成長するということだからね。そして、何かを分かるには言葉が必要なんだ。だから、身体は、どんどん自分を言葉にしたがる。
クー
身体は、心をどんどん成長させたいから、どんどん言葉にしたがる。
クー
わたしの身体は…わたしの意志や私の気持ちを超えて、成長したがっている・・・?
次第にぼそぼそと一人言のように語るクー。
クーは、興奮した様子で、カバンから出した水筒の水を一気に飲み干し、パタパタと片づけをして、老ウサギにペコッと会釈をして、そそくさと建物を去っていった。
老ウサギはテーブルの上を布巾でサッとふきながら、ニコニコつぶやいた。
第6話へ続く