この記事では、カール・ロジャーズのパーソナリティ理論に出てくる命題1についての説明に挑戦しています。
命題1のポイントは、私たちは、決して共有することのできない、それぞれの認知の世界を生きているということです。
カール・ロジャーズのパーソナリティ理論をなんとかわかりやすく説明できないかと考え、できるだけ簡単な言葉で説明しようとして作成した全15話にわたる小説タッチの記事です。
カウンセリング、カール・ロジャーズ、パーソナリティ理論、来談者中心の積極的傾聴、人間理解に興味のある方は読んでみてください。
第3話 学習初日 命題1
次の日、クーは、あの建物の中の小さな椅子にちょこんと座っていた。
まだ慣れない場所なのでドキドキソワソワしているようだ。
クーは、ゴクリと息をのんだ。
先生
この本には、人間のパーソナリティの変化に関することが書いてあるんだ。
先生
それじゃ、この本に書いてあることを一緒に読みながら、できるだけ、簡単な言葉に読み替えて、自分の経験と照らし合わせながら学んでいこう。
命題1
個人はすべて、自分が中心であるところの、絶え間なく変化している経験の世界に存在する。
(命題はロージァズ全集8巻パーソナリティ理論、第2部、第4章より引用)
先生
さて、これをできるだけ、簡単な言葉に読み替えてみるね。
私達はそれぞれ、自分だけの世界を生きている。そして、その世界は常に変化している。
クー
自分だけの世界?わからないです。どういうことですか?
先生
うん。私たちは、それぞれ、別々の世界をたったひとりで生きているということだよ。
クー
別々の世界を?たったひとりで? わたしと先生は、同じ世界にいますよ、こうやって一緒に勉強だってしているし。
クー
はい。先生と呼ばせてください。これからいろいろ教えてもらうから!
先生と呼ばれて少し照れている年老いたウサギをクーはニコニコしながら見つめている。
先生
ゴホン。そうだね。私とクーはこうやって会って、一緒に勉強することができるね。だけど、実は、この今も、私とクーは全く別の経験の世界を生きているんだ。
先生
簡単に言うとね、ウサギが10羽いれば、10の世界があるということだね。
先生
うん。そう考えてしまったほうが、話が早い。そしてね、クーの住んでいる世界はね、クーの知っているもの、クーの感じることができるものだけで、できているんだ。この感覚はわかるかい?
クー
え?わたしの知らないものも世界にはあると思います。
先生
うん。それは、クーが、クーの知らないものが世の中にはある、ということをクーが知っているからだね。
クーは首をかしげている。
先生
たとえばね・・・、クーは、人間の食べ物におにぎりというものがあることを知っているかい?
先生
美味しいよ、おにぎりは。本当に美味しいよ。ところで、今まで、クーの世界にはおにぎりがなかったということはわかるかい?
クー
でも、わたしがおにぎりを知らなかっただけで、世界におにぎりは前からあったんですよね?
先生
それは、今クーが、おにぎりの存在を知らなかったことを知ったから言えることだね。
先生
クーにとってね、知らない、感じられないものは、クーの世界に
ないものと同じなんだ。少し難しい言葉でいうと、
認知だね。クーが
認知できないものは、クーの世界にはないものと同じ。
私とクーは知っているものも、感じているものも全く違うよね?だから全く別の世界を生きているということになるんだよ。
先生
私とクーでは、いろんな感覚が違うということはわかるかい?
先生
ふふ。私は私の感覚で私の世界を生き、クーはクーの感覚でクーの世界を生きている。私の世界にあるものは、私が知り、私が感じることができるもの。クーの世界にあるものは、クーが知り、クーが感じることのできるもの。
そして、私とクーは、お互いの感じ方を確かめ合うことはできない。
先生
クーに見えているこの机と、私に見えているこの机がまったく同じに見えているかどうかなんて、どうやって確認するんだい?
先生
だから私達は、それぞれが全く違う個人的な経験の世界を生きていると考えるしかないんだよ。たったひとりでね。
プシュー
クーは頭から煙を出してしまった。
先生
あらあら、難しくて頭がオーバーヒートしちゃったかな・・・。
クーは、カバンから水筒を取り出しクピクピと水を飲んだ。
先生
クーの世界が常に変化しているというのはわかるかい?
クー
はい!夏は暑いし、冬は寒いです。朝は明るいし、夜は暗いです。世界は変化します!
先生
うんうん。そうだね。だけど、この本の命題1が言っているクーの世界の変化はもう少し深いんだ。
クーは、不思議そうに先生を見つめる。
先生
クーの世界は、クーの知っていることと、クーの感覚でできているから、クー自体が変われば、クーの世界そのものが変わってしまうんだ。
先生
そう。夏の暑さ、冬の寒さ、朝の明るさ、夜の暗さは、クーの感じ方が変わることによって、今とは全く別のものに変わるということだよ。
先生
さて、今日はここまでにしておこう。明日は命題2に挑戦しよう。
クー
はい、わかりました。今日はありがとうございました!!
クーは、ササッと水筒をカバンに入れて、ペコッと会釈をして、小さな建物を後にした。
第4話へ続く